紫音＜しおん＞神様から与えられた子供  III　は1994年小出麻由美氏の執筆で、いのちのことば社より発行され、現在は絶版となっています。問い合わせ多数により、今回ブログという形で皆様の元にお届けすることになりました。ブログ I,II の続編です。＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　いよいよ紫音の退院の日。私は、使うこともないだろうと思っていた手作りのおくるみに紫音をそっとくるみました。看護婦さん達は、明日から紫音がいなくなると思うととても寂しいと言いながらも、喜びの涙を浮かべて見送ってくださいました。主人も、この時ばかりは涙を止められなかったようです。あまりにもつらすぎて会いに来れなかった主人の両親もそろって迎えに来てくれました。

　私達は、先生と看護婦さんに深々と頭を下げ、病院を後にしました。　

　願ってもない喜びの中で、同時に不安もいっぱいでした。今まで病院の中で、先生やたくさんの看護婦さん達に守られてきた紫音を、今度は私達ふたりで守ってゆかねばならないのです。私は夜中に何度も目を覚ましては、紫音の小さな寝息を確かめる日々を過ごしました。いきなりガラス細工を手渡されて、胸に抱えながら生活を始めたようで、しばらくは恐怖心も抱きましたが、それすら感謝なことでした。風邪をこじらせると敗血症になって死亡する率が高くなるので、特に気をつけるようにと言われ、冬の間は通院以外は外出を禁じられました。

　心臓の穴も8ミリ開いていることが判明し、手術を要すると言われていましたが、不思議なことに今もそれを免れています。本当に神様が守ってくださっているのだと思います。ほかにも、数えあげたら切りがないほど弱いところばかりです。

　次から次へと困難は続きましたが、その度に祈り、助けられ、今日があります。　　

　そして今年の６月で１０歳になりました。もう小学校４年生です。普通学校の育成クラスの中で、過ごしています。担任の先生は、紫音の入学と同時に転任してこられた最高に素晴らしい先生で、正に神様が紫音のために御配慮くださった方と確信しております。あるときは、本当に教師以上の愛情を注いでくださり、感謝しきれないほどです。それに１年生のときにはクリスチャンの先生も備えてくださっていました。

　思えば、紫音はいつでも多くの方々の愛情を受けながら成長してきました。本当に神様に守られながら生きているのだと思います。

　保育園でもお優しい園長先生や担任の先生に囲まれ、クラスの友達にもたいへんあたたかく助けていただき、共に成長させていただきました。御父兄の方々の御理解も深く、卒園時には「紫音ちゃんがいてくれたから、このクラスの子供達がとても優しくなれた」とおっしゃっていただき、この上もないしあわせを感じました。

　通園バスで送迎の運転をしてくださっていた先生まで、紫音をとても気にかけてくださり、入学式に「こいでしおん」と名前の入った鉛筆をプレゼントしてくださいました。その包みを開けたときには、思わず涙がこぼれました。そして卒園してから４年経った今でも紫音の誕生日を覚えてくださっているのです。ほかにも記しきれないほどいろいろな方々に愛情を注いでいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

　私達は今、この子を育ててきて本当によかったと思っています。

　色々な素晴らしい出会いがこの子によってもたらされています。

　私の交通事故も神様の御計画のひとつだったと思います。おそらく私は事故とは関係なく、はじめから障害児を宿していたと思うのです。それで神様が「私が託すこの子をお前は本当に育てることができるのか」と事故によって問いかけてくださり、私に心準備をさせられたのだと思っています。

　産後、退院して間もなく主人から、紫音は白血病を併発したダウン症候群という病気で事故とは無関係かもしれないと打ち明けられたとき、逆にとても安心したのをおぼえています。私が気をつけていてもどうしょうもなかったことと割り切れたからです。それは今の医学では解明できない病気です。事故がなくても、現在４００人にひとりの割合でダウン症児は生まれています。私がその４００人の内のひとりの母親だったとしても、何ら不思議はないわけです。私達はこの地上に不可解なことをたくさん背負って生きています。

　人それぞれ与えられた人生の中、苦しみや悲しみは数えきれないほどあるでしょう。人生の一片だけを見つめていてはわかりませんが、つらく悲しいことが実は大きな幸いへの途中経過かもしれません。それを御存知なのは、私達人間を創造し、天地を創造なさった神様だけです。また、ときに神様は私たちが味わう様々な苦しみを通して御自分の栄光を現されることもあるようです。

　聖書の中のヨハネによる福音書9章２、３節でイエス様の弟子がある盲人を指して「この人が生れつき盲人なのは、だれが罪を犯したためですか。本人ですか、それともその両親ですか」と尋ねるとイエス様は「本人が罪を犯したのでもなく、また、その両親が犯したのでもない。ただ神のみわざが、彼の上に現れるためである」とお答えになります。私は、何と素晴らしい教えなのだろうと深く感銘を受けました。紫音を育ててゆくに当たって、これからも色々な困難が待ち受けていることでしょう。でも、私はすべて神様に信頼しているので、平安です。

野のゆりを見よ。明日のことを思い煩うことなくその日１日を神の命のま　

ままに美しく装う。

新改訳聖書マタイの福音書６章参照

　この大好きな聖書の箇所をいつも心に置いています。

　紫音の次に与えられた次女には、この聖書の箇所から命名して野夕梨と名付けました。その子をおなかに宿しているときは、とても不安でしたので、いつもこのみことばによって支えられました。紫音より２つ年下の彼女は、とても健康で心の優しい妹です。私達夫婦や姉・紫音の大きな力となり、喜びとなってくれています。

　今年の１０月で8歳になりますが、もうしっかりとした信仰を持ち、紫音と２人で主人の母（彼女達の大好きなおばあちゃん）に、いつも伝道してくれています。母とは４年前に父を亡くしてから一緒に暮らしています。

　キリスト教に反感を抱いていた母も、紫音のたどたどしい言葉でのお祈りをとても喜んで聞いています。そして私のことも大切にしてくれます。障害児を持つことを恥とする日本のこの風潮の中で、母はどこへでも紫音を連れ出してとてもかわいがってくれます。私はそれだけでもう充分にしあわせだと思っています。

　思えば本当に紫音は色々な方々の手を必要とします。私は毎晩、子供達とともに「紫音と野夕梨が神様と人のお役に立つ者となれますように———」とお祈りしますが、時々、たくさんの人の手を煩わせる紫音が果たして人のお役に立つことができるのだろうか・・・・・・と不安になることがありました。しかし、中川先生のテレビ番組に出演することにより、多くの方々が紫音の存在に深く感動を覚え、励まされたと知らせてくださり、感謝の思いでいっぱいになりました。紫音の役立ち方は人間の考えを超えたところにあるのだと、はっきりと悟ることができました。

　現在、病や障害を持つことにより苦しんでいる方々がいらっしゃるならば、１日も早くイエス様を知って、喜びと平安を得てくださることを、私は願うばかりです。

紫音

紫陽花色の雨音を聞きながらやってきた私の初めての子供

私はこの娘の存在が神様の前に

かけがえのない大きな命であるということを

信じて疑いません。

わが思いは、あなたがたの思いとは異なり、

わが道は、あなたがたの道とは

異なっていると主は言われる。

天が地よりも高いように、

わが道は、あなたがたの道よりも高く、

わが思いは、あなたがたの思いよりも高い。

イザヤ書５５章８、９節