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2008.08.12
草の花
「一番好きな小説は?」
と、尋ねられたら迷わず答えるのが 福永武彦著・<草の花>です。
その題名は聖書から。
それは一青年が、汐見茂思<しおみしげし>という、サナトリウムで知り合い亡くなった青年の手帳を紐解きながら始まる若き日の悩みと儚い恋を綴った美しくも哀しいものがたり。
人生というものを深く問いかけ思考する主人公の切なさややるせなさを辿り、生きることの意味を探っていく。
そこには、作家自身の宗教観であるキリスト教の聖書がベースになっていて、共感を覚える箇所を随所に感じることができました。
私はその細部にわたる繊細な文章を繰り返し読んでは、溜息の出る程美しい表現力の日本語に、ひとり感動しながら読み進めるのが惜しい気持ちになるほどでした。
それに、ふたつの異なる時間、過去現在を同時進行させていく不思議な文章もとても魅力でした。
この小説は誰でも必ず知っているというものではないのですが、意外にも隠れファンも多いのです。
映画監督の大林宣彦氏も一番お好きな小説だそうです。
彼が小説家を目指していた時にこの本に出会い、読み終えた後でその思いを断念し、映画監督に転向なさったとか!?
何故なら、自分の描きたい世界が既にそこに全て著されていたから、もうこれ以上の作品は書けないと思われたということなのだそうです。
それで、福永氏の生存中にこの小説を是非映画化したいと嘆願なさったようですが、残念ながら氏の快諾を得られなかったそうです。
映画化された<草の花>を見てみたかった気もしますが、私が持つイメージとも異なってしまいそうな気もするので、実現されなくてよかったのかも知れません。
福永氏にとってもそれほど大切になさっていた作品だったのでしょうね。
そういえば、大林宣彦監督のヒット作映画・<時を翔ける少女>に少し福永文学の世界に通じるものがあるような気がします。
福永氏の作品に触れれば、神を意識していることがよく分かりましたが、その晩年に入信して天に召されたとの情報を知り、とても嬉しく思ったものです。
個人的にちょっと残念だったのは、ファンレターを書かなかったこと。
・ ・・でも天でお会いした時、その時に書きたかったことをみんなおしゃべりすることにしています。<本気です!笑>
人はみな草のごとく、その
光栄はみな草の花の如し。
聖書 ペテロ前書、第1章、24
2008.2.14 小出 麻由美
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