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2006.07.05
デザートは、桜のボウルに花のゼリー
<1994年3月「いのちのことば」表紙によせてに掲載された文章>
桜の季節が近づくと、私はうきうきしながら桜の花の描かれた大きなボウルを居間に飾ります。その中にポプリをたくさん入れて。 幼いころには、桜の花には少しも魅力を感じなかったのに、今では愛してやまない花の一つです。
でも、なぜか桜の花の描かれた素敵な品にあまり出逢うことがありません。ですから、そのボウルを見つけた時の喜びは、ひとしおでした。
ミルク色のボーンチャイナに描かれた繊細な淡い桜の花びらを見つめながら、友人たちとの話が弾みます。 ─ちらし寿司を入れたら素敵。マスカットをたっぷり盛るのもいいわね。ブルーのインクを落とした水を入れて、桜の花びらを浮かべるのはどう? ゼリーなんかも・・・・・・
* *
何年か前のちょうど八重桜の季節、私は、わが教会のマケリゴット牧師夫妻とその母教会の牧師夫妻を夕食にお招きしたことがありました。
─デザートは絶対、桜のボウルに花のゼリーだわ・・・・・・
ピンクの薔薇と薄紅葵のお茶に少量のゼラチンを溶かし、蜂蜜をたっぷり入れます。そこへレモン汁を注いでゆくと、くすんだ紅茶色が桜の花と同じ薄紅色に変わってゆきます。それを冷蔵庫で冷やせば出来上がり。
桜のボウルの中でうっとりするくらい美しい花のゼリーを、テーブルの真ん中に飾ります。そのロマンティックなゼリーを口にしながら、お客様との会話もより弾んだようです。
最後に、会話のできない障害をもった長女のために、イギリスの牧師先生が長い愛のこもったお祈りをささげてくださり、私たち夫婦はとても勇気づけられたのを憶えています。
「ぜひ、あなたがたご家族もイギリスの私たちの教会へいらっしゃい。」
そんなことばを残して帰途に着かれた先生がたをお見送りした暗い道筋、敷き詰められた白い桜の花びらの上を歩きながら、とても幸せだったのを思い出します。
─しかし、たった一つだけ私の心の中に淡い後悔が残りました。
ああ、桜の花びらもあのゼリーに浮かべるべきだったわ・・・・・・。