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2011.10.09
夜来香 <イエライシャン>
花そのものよりも花の名前の方が知られている<夜来香>もそんな花のひとつでしょう。
日本人でありながら李香蘭<り・こうらん>という名前で歌姫として中国に暮らし、後にスパイ容疑をかけられ数奇な運命を辿った、山口淑子女史が歌った有名な歌の題名がこの<夜来香>。
この花は中国原産の花で、今でも日本ではあまり目にすることの少ない花です。
知っていたのは、花の名前の漢字から夜に香る花なのだろうなということと、歌の詞から夜ひとり花の香りの中で恋する人への想いを重ねる、さぞロマンティックな素敵な花なんだろうなということだけ。
実はこの花、20年近く前に知人が挿し芽をしたものを下さり、寒さに弱いということなので温室で育てたことのある花でした。
でも、その時にはこの花の魅力はよくわかりませんでした。
と、いうのも花そのものは葉の色と余り変わらない緑色を帯びた小さな地味な出で立ちで、しかも温室で育てたので、夜にわざわざ香りを嗅ぎにいくことはしませんでしたから。
噂ほどに香る花でも美しい花でもないと、実は私の中ではすっかり興味をなくしていた花のひとつなのでした。
ところが、先週末、急遽10年余り帰っていなかった大分の実家に戻った夜のことです。
迎えに来てくれた父の車を降りた途端に、広い庭にも関わらず私の体全身が今まで香ったことのない甘い花の香りに包まれるではありませんか!!!
一体この花の香りは何なの!?
家から出迎えてくれた母に挨拶もそぞろに尋ねたら、「あんたの帰りを待ってたように、今夜から匂いがしだしたわ。名前は知らんけど、友達に挿し芽をして付いた花が満開!」と案内してくれたのが、リビングの窓際に植えられ大きく育っていたあの夜来香の花でした。
花の名前を知らなかった母に<イエライシャン>と教えたら、あの歌の花がこれなのかととても驚き満足そうでした。
とにかく、濃厚なのに甘くまろやかで幸福感に満たしてくれる花の香にうっとりで、思わず「この花の香りがいっぱいだけでも帰った甲斐があるわ!」と歓喜したほどです。
その花の横には今を盛りと満開に開いた大きな金木犀もあったのに、その夜はその強い金木犀の香りがちっともしなかったといえば、どれほどこの夜来香の香りが濃密だったかということがお察し頂けることでしょう。
夜来香は庭中に香るだけでなく、窓を少し開ければ広い部屋でも隅々まで花の香りが沁み入ってきます。
その日は10月と云えども夏の気配の残る暖かい夜だったので、泊まった客間の窓も少し開けて夜来香の香りを纏って眠りに就けるという、この上もなき幸運に恵まれました。
窓を開けて眠りに就けるなんて、平穏な田舎ならではの暮らしですね。
ここで生まれ育ったとはいえ、今ではそのことも驚きでしたが。
この花は一夜だけの短い命ですが、小さな花が集まって繰り返し咲いては散って数日間甘い香りを漂わせてくれます。
小低木でしたが、数多く枝分かれしたしもとに溢れるほどの花が付いています。
このまま成長し続ければさぞ大きな木になるのだろうと思いきや、冬になったら地上の枝は全て枯れてしまうということです。
でも、翌春には芽を出してぐんぐん伸びて枝を広げ、秋の初めにこのように花を咲かせて香り高く咲くのだそうです。
果たして京都の山の上の我が家の庭で、厳しい寒い冬を越すことが可能なのかどうか、
それはわからないけれど、是非リビングの前の庭に植えて夜の香りを楽しみたいと思い、挿し芽のための小枝を持ち帰って来ました。
上手くいけば仲秋の名月をこの甘い香りの中で楽しめるのでは?と思ってみたりするのですが・・・
夜来香、この花の故郷中国へ行けば、大陸がこの季節この甘い香りでいっぱいなのでしょうか?
♪南風はそよそよと吹き
夜鶯はもの寂しく鳴き
月の下で花たちはみな夢に入り
ただ夜来香だけがかぐわしい香りを
漂わせているこんな果てしない夜が好き
夜鶯たちが歌うのも好き
花たちが見る同じ夢も好き
夜来香を抱いて
夜来香に口づけしている
夜来香あなたのために歌う
夜来香あなたのことを思う
ああ、あなたのために歌い
あなたのことを思う
夜来香 作詞/張宗榮
2011.10.10 小出 麻由美