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2018.08.01

ルノワールのイレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢

日本人なら誰でも一度は目にしたことのあるはずのルノワールの名画<イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢>の肖像画。
私の彼女との初めての出会いは、確か小学校の頃の図画の教科書でした。
可愛らしい女の子の肖像画だったのに何故だか、当時は全く魅かれていない絵でした。
某銀行の年間の大きな一枚のカレンダーの絵にも起用されておりましたっけ。

とにかく、戦後の高度成長期に於いては、これらの美しい西洋絵画は多くの日本人たちに夢と希望を与えてくれたに違いありません。

私は若い頃から印象派の絵がとても好きでしたが、あまりルノワールの絵画に魅かれたことはありませんでした。
もともと人物画も大好きでしたが、マネやモディリアニなどの少し憂いを帯びた画が好みで、ふくよかすぎる明るい色合いのルノワールの肖像画には魅かれることはありませんでした。

ところが、数十年前、何気なく赴いた美術展で今まで画集でも観たことのなかったルノワールの小さな肖像画に釘付けになってしまったのです!
多分8号サイズ位の絵で、彼の絵画の中ではあまり有名なものではありませんでしたし、キャンバスに空白の部分も多く、多分作品作りのための習作だったと思います。
このコレクションの名前すら忘れてしまったので、もう二度とあの美しい女性には出会うこともないでしょう・・・
長い金髪のふわふわの巻き毛を片側に流し、胸から上を描いていた軽やかなタッチのもので、その金髪の軽やかさと言ったら、まるで本物のようで直ぐにでも手に触れられる雰囲気に仕上がっており、本当に驚きを隠せぬほど感激しました。
私はしばし時間を忘れるほど立ち竦み、長い間その絵の前にいた記憶があります。
残念ながら、その絵葉書きは販売されておりませんでしたから、もうあの画のことは分りませんが、多分絵葉書になっていてもこのリアルなタッチは表せていなかったと思います。
それに、似たような画が私の持っている画集の中にもありましたが、あの女性とは全く異なっています。

どんなに文明が向上しても、印刷物ではその絵画の素晴らしさを全く伝えられないものだと、しみじみ感慨深く思います。
勿論それだからこそ、絵画には付加価値があるのでしょうけれどね・・・

それ以来、私のルノワールの絵画を観る目も一変してしまったという訳です。
でも、今でも彼の全作品が好きだという訳ではなく、主に彼の中期1870年代に描かれたものが特に好きです。
イレーヌ嬢の肖像画は1880年代に描かれた作品のようですが、私の好きだった頃のルノワールの作品と同じ筆致に感じます。
自分でも人物画を描くようになり、私が描く日本人の肌と髪色とは全く異なる色合いと質感のフランス人の人物画にとても興味を覚え、それで是非とも有名なイレーネ嬢の実物の絵画を観てみたいとずっと思っていたと言う訳なのです。

当時裕福な資産家のダンヴェール氏が、愛娘イレーヌの肖像画制作のため、その頃まだ無名だったルノワールを支援する意味もあり、依頼したのだそうですが、仕上がりは両親もイレーヌ本人もあまり気に入っていなかったということですから、全くの驚きです!!!
最もその頃はまだ写真技術も発達していなかったので、肖像画は実物そっくりに描かれてあるものこそ価値を見出されていたようです。

話は変わり、スイスで大成功したドイツ人の実業家エミール・ゲオルク・ビュールレ氏(1890~1956年)は大変な審美眼のある方で、亡くなるまでの20年間に印象派を中心とした世界中の絵画を収集し、屈指のプライベートコレクションを一人で築き上げた人物です。
このイレーヌ嬢の肖像画は、彼がイレーヌ本人との交渉により買い取られたとのことです。
先にも述べましたが、それはイレーヌ自身があまり気に入ってなかったせいで実現したのかもしれませんね・・・
その後、ご自分の肖像画がこんなにも世界中の人々に愛でられるようになるとは、夢にも思わなかったことでしょう!
ある意味、ビュールレ氏に託して大正解だったかもしれませんね!
こんな素敵な肖像画が名もなき人に買い取られていたら、誰の目にも触れなかったかもしれませんから!

それで、今回はビュールレコレクションをまとめて観られる最後の機会だそうです!

それなら、私も是非ともイレーヌ嬢に会いに行かねば!と思ったのですが、残念ながら今回は関西では開催されていないので、少し遠いけれど福岡に住む妹にも会いたいし、両親のことも気になっていたので重い腰を上げることにしたのです。
が、そこに行くための相談を妹にしたら、彼女が私への還暦お祝いにとハウステンボスの薔薇園のオプションツアーのプレゼントをしてくれたという訳なのです!

素晴らしいハウステンボスの素敵なホテルで一泊過ごさせて貰い、次の日は九州国立博物館にて、本物のイレーヌ嬢と初めてのご対面を果たせたという筋書きなのです。
不思議なことには、この<イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢>とモネの<睡蓮>の二点の絵画のみフラッシュなしの写真撮影が可能でした。
今まで数ある美術展に足を運んだけれど、こんなことは初めての体験でした。
だからこのブログの写真も私が本物の絵画を撮影したものなんですよ!

言うまでもなく、透き通ったお肌で軽やかな巻き毛の上品なイレーネ嬢は、可愛らしさの極みでした。副題は月並みですが<可愛いイレーヌ>。

いつまでもずっと眺めていたい少女で、誘拐できるものなら連れ帰りたいくらい!!!
でも、それは不可能な話なので、彼女を描いてある缶入りお菓子と絵葉書を買いました。

数あるモネの睡蓮の絵も、ビュールレ蒐集のものは最高峰の一枚だったことは間違いなし!でした。

本当に素晴らしい絵画の旅を果たせて幸せでした。
優しい妹に心より感謝しています。

2018.8.1     小出 麻由美

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